少し前に読んだスティーブン・キング原作の映画化。
上下巻にわかれた文庫本の上巻のみ(と下巻のラスト少々)だけ映像化されていて、若干テーマが変わってる印象です。
ここから原作&映画のネタバレをしています。
大筋においては原作と変わらないけど、終わり方が大きく違ってました。
主な登場人物はほぼ原作通りで、素晴らしい俳優さんに恵まれたなぁって思いました。
謎の老人役のアンソニー・ホプキンスについては、文庫本の表紙にデカデカと顔が出てるので違和感を感じることもなかったし(笑)
少年と少女がこれまた素晴らしい!
10代の頃の美化された大切な思い出の丁寧な再現に、子役が一役も二役も買っているって感じがします。
ボビー少年の母親役のホープ・デイヴィスは何作か出演作を観たけど、地味で印象に残りづらい女優さんだなぁって思ってました。
今回かなり難しい役柄だったけど、バランスの取れた演技だったと思います。
ちなみに原作だともっともっとひどい母親だったり。
クライマックス、怪我をした少女をテッドが介抱してる場面で勘違いのためひどいことをしてしまうけど、原作だと猛烈に大暴れして誰も手がつけられなくなります(^^;
あげくのはてにテッドに物をなげつけて流血させてしまいます!ここ読んでてすごくイライラした。
テッドという人について映画でどう処理されてるのか興味があったけど、これはどうなんでしょ?
すでにどういう人物か知ってる自分の目からしか観ることができないので何とも言えないけど、映画だけ観た人にとってはけっこうわからないというかやや無理があるんじゃ。
そもそもこのエピソードだけ切り取ってほろ苦い青春映画に仕立て上げようってところに無理があるような。
映画では時代感を盛り込んで共産主義との戦いや、政府がらみの超能力者実験まがいの空気を匂わせていますね。
これは無難だしリアリティを感じなくもない上手い理由付けだと思う。けど、迷子の貼り紙やら派手な車やらといった小物に対する納得ができないんじゃないかなぁ・・・。
テッドの正体はいわゆる最高の超能力者という点では変わらないけど、追われている理由やそもそもの世界観から大きく違います。
膨大なキング作品はすべて「暗黒の塔」という我々とは違う世界でつながっています。
「アトランティスのこころ」もキング作品の例に漏れずダークタワーシリーズという超長編作品の一部にあたるんですね。独立した作品として楽しめるようにはなってるけど、この本を手に取る人でダークタワーとの関連を全く知らずに読む人はほとんどいないでしょう。
で、テッドはそのダークタワーシリーズのある勢力から狙われ能力を利用されていたわけです。一度は脱出したものの、ラストで連れ戻されてしまいます。ここは映画と一緒。
映画だとその後については触れられていませんが、再度脱出したらしいことをうかがわせる描写があります。
母の転職に伴い転校したボビーはグレてしまいますが(結構ショック)テッドからある物が届きます。ここ最高に感動!
ちなみにボビーは文学系の素養があったにも関わらず大工さんになり、自分達家族の家も自分で建てて幸せに暮らします。母とは溝が埋まらないまま他界。自転車も買ってもらってません。自分で拒否したから。けっこうバッドエンド?
映画のラストではキャロルの娘が登場していますが、ここが大きく違います。
文庫の下巻で大学に進んだキャロルはベトナム戦争反対の学生版アカ団体に参加、過失によって一般人を多数爆殺してしまい警察に追われる身になります。
その過程で死んでしまったと風の便りで聞いていたボビー。
親友サリーのお葬式で数十年ぶりに生まれ故郷に戻ったところは映画と一緒。
そこで顔に大きな傷跡の残るキャロルと再会。過去を捨て名前を変えて教壇に立ってるとのことでした。
下巻には映画で登場したその後の人物が、群像劇風に細かく複雑にからみあっています。
いじめっこ3人組みの1人も贖罪行為に勤しんでいるし、親友サリーもベトナム戦争に赴きそのいじめっこの命を救っています。
大学時代のキャロルの友人の1人もベトナム戦争に登場。
原作においてこの戦争が人々を変えたという印象はとても強いです。
サリーについては強烈な神秘体験エピソードがあって、映画でも登場したグローブが大きくクローズアップされています。
映画では甘酸っぱい思い出として綺麗に終わっていますが、その後の彼らの現実を描いている点も含めての作品でしょう。
映画だと大人になったボビー(こじゃれたヘアスタイルが笑えるデヴィッド・モース)は洗練された身ごなし・職について成功してる風に読み取れてしまうところがちょっと違うんじゃないかと思う。
地味ながらも美しい青春映画に仕上がってるけど、それだけならよくある話、という域を出ていないところが惜しい。
アトランティスのこころ
HEARTS IN ATLANTIS
2001年 アメリカ
監督:スコット・ヒックス
出演:アンソニー・ホプキンス、アントン・イェルチン、ミカ・ブーレム、ホープ・デイヴィス、デヴィッド・モース